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信じられないほどの治癒を有する「脳」の機能

Brain

まだまだ分かっていないことが多い「脳」という臓器。この脳が持つ「可塑性(かそせい)」という特徴を使った治療について、書かれている本があります。


『脳はいかに治癒をもたらすか』

著者:ノーマン・ドイジ(精神科医・精神分析医)

コロンビア大学精神分析研究センター、トロント大学精神医学部に所属の医師が書いた本です。

600ページに及ぶ大作なのですが、その内容はにわかには信じられないものばかりです。

にわかには信じられない脳の可能性

  • 慢性的な痛みを絵を凝視することで治す
  • 歩くことでパーキンソン病の症状を抑える
  • レーザー光をあてることで脳損傷、抑うつを治す
  • 体の動かし方を変えて、機能を復活させる
  • イメージトレーニングで失った視力を取り戻す
  • 神経調整をする機械を舌に載せて脳卒中を克服
  • 音で自閉症を治す

結論だけ並べてしまえば、まったく理解できません。

しかし、「脳の可塑性」を知れば、なんとなく可能性を感じるから驚きです。

脳の可塑性とは何か?

では、可塑性とはいったい何なのでしょうか?

辞書で調べてみると、このように書いてあります。

かそ‐せい【可塑性】

固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質。

引用元:デジタル大辞泉

外部からの力によって形が変わり、またその形を維持することなのですね。

一方、形が変わったとしても外部からの力がなくなれば、元の形に戻ることは「弾性」といいます。

脳には変わる機能を持っている

では「脳の可塑性」とは何か? ノーマンドイジ氏は、このように表現しています。

「神経可塑性とは、自己の活動や心的経験に応じて、脳が自らの構造や機能を変える性質のことである」

はじめに(P.13)

脳が持つこのような特徴によって、治療が困難とされている症状を治療・緩和していくというのです。

正直なところ、素直には信じられないのですが、数々の事例と巻末にある出典論文の存在もあり、否定はできません。

論文の存在が正しさの証明にはなりませんが、一つの大きな根拠となるのは確かです。

失った視力を取り戻した事例

この本の中で、私が最も驚いたのが第6章の「視覚障碍者が見ることを学ぶ」。

ブドウ膜炎という自己免疫疾患により、盲目となってしまった患者が視力を取り戻した事例が書かれています。

眼球内に炎症が起こることで網膜に異常をきたしたり、白内障を併発し除去したりといった事態に見舞われたのだそうです。

そして、最終的には見えなくなってしまったのだと…。

衝撃の治療法

これだけでも衝撃的ですが、本書で紹介されている治療法はもっと衝撃的です。

具体策をまとめてしまえば、

  • 一日に数時間、青みがかかった黒を思い浮かべて、黙想する
  • 目を上下左右斜めに動かす
  • まばたきを増やす
  • 日光浴

というだけなのです。

正直なところ、これで治るとは信じられません。

実際、患者も効果をすぐに実感することはなかったようです。

動きによって脳に新たな体の使い方を学ばせる手法

そして、次に試したのが「フェルデンクライス・メソッド」という手法です。

私は全く知らなかったのですが、日本にも「フェルデンクライス・ジャパン」が存在するのですね。

フェルデンクライスメソッドとは?

フェルデンクライス メソッドは、人間の機能、発達、学習を理解するためのユニークで洗練されたアプローチです。

フェルデンクライスジャパン

これだけだと、よくわかりませんね。おそらく、日本だと医師法などの関係で「治療」だと明記できないので、ぼかした表現にせざるをえないのだと思います。

本を読んだだけの私が表現すると「身体を動かすことで、新たな身体の使い方を学んでいく」手法
だと理解しています。

例えば「見る」という機能は、おおざっぱに表現すると、

  1. 目から入った光が網膜に届く
  2. 電気信号に変換されて神経を通る
  3. 脳に送られる

その際、網膜や水晶体に異常がある人が、今まで通りの目の使い方をしても見えないままです。

しかし、新たな目の使い方によって「見る」という機能を取り戻すことをめざしているのだと思います。

この「新たな目の使い方」の習得に、脳の可塑性が大きく関わっていると解説されています。

フェルデンクライス・メソッドで下地を作り、青みがかかった黒を瞑想する手法が効果に繋がったということなのです。

信じられないけど、大きな可能性を感じる

読み終えた今なお、この本のすべてを素直に信じることができていません。しかし、一つの事実として起きているのだと思います。

脳についてはまだまだわからないことだらけ。今後、さらに驚くような治療法が出てくることでしょう。

一つひとつ解き明かしていく「人類」は、本当にすごいなと驚かせてくれる一冊です。

脳波をα波にすることは本当に効果があるのか?

PeteLinforth / Pixabay

「脳波をα波にする商品がいろいろあるけど、あれって本当に効くの?」という調べもの依頼をいただきました。

たしかに、単に検索するだけでも「α波を出してリラックス!」みたいな商品やサービスはたくさん出てきます。

  • 勉強法
  • ストレス解消
  • 運動で高いパフォーマンスを出す
  • 安眠
  • 能力開発

などに効果があるのだとか。ずいぶんと万能です。果たして、本当に効果を期待できるのでしょうか?

脳波の計測は、医療分野でも実績がある

そもそも、脳波とはいったい何なのでしょうか。

大脳の神経細胞(群)の電気活動を体外に導出し、記録したもの。

引用元:岡山大学病院 検査部

脳内の細胞の働きが電気信号を有するので、それを頭皮につけた電極で計測したものなのです。ただ、髪の毛だけでなく頭蓋骨や肌などを通して計測するので、様々なノイズが混じるようです。

しかし、それでもなお医療分野で診断に使われているくらい、真剣に研究されている分野です。応用できる分野も増えてきています。

脳波検査は、てんかんの診断・病型判定、けいれんや意識障害の評価、器質性脳障害や睡眠異常の診断等に用いられます。

引用元:日本赤十字社 姫路赤十字病院

脳波の一つが「アルファ波」

脳波にはその周波数によって、分類をされています。その一つが今回のテーマとなっている「アルファ波」です。

脳波は周波数によって、α波、β波、θ波、δ波に分類されます。

引用元:日本赤十字社 姫路赤十字病院

それぞれに特徴があるので分類され、一定の意味を持たせて、観測されているのです。中には、α波とβ波をさらに細分化し、「スロー・ミッド・ファスト」の3つに分類している研究もあります。

一般的に、それぞれの脳波が観測されやすいのは以下のような状態とされています。

δ波(デルタ波),1~4Hz,睡眠時
θ波(シータ波),4~8Hz,睡眠時・注意時
α波(アルファ波),8~12Hz,リラックス・閉眼時
β波(ベータ波),15~20Hz,集中・運動時
γ波(ガンマ波),30~Hz,記憶・視覚処理時

引用元:簡易脳波計による記憶作業における脳波状況フィードバック学習システムの試作

α波がリラックス時に観測されること多いことから、「α波は体に良いのだ」とするのが冒頭で調べた商品やサービス記事の主張です。

「α波はリラックス」だと言い切る論文が見つけられない

しかし、これが研究者が書いている論文になると、表現が少し変わります。

α波はリラックス時,特に閉眼時に現れやすいとされており,β波は複雑な思考をしている時や緊張時に現れやすいとされる。

引用元:脳波計測実験のための簡易で安価な環境構築

という表現になるのです。あまり違いがないように見えますが、明らかに違うのは断言していない点です。

他の論文を読んでみても、「一般的にα波が優勢な状態は、リラックスしていると言われている」という類の表現が多いのです。

結局、私の調べ方では「α波はリラックスしている証拠だ」と言い切っている論文は見つけられませんでした。

むしろ、α波だけによる判断を否定する文献がある

むしろ、最近の論文になると、今までとは違った解釈をしているものが見つかります。

脳波は個人差によって大きく同一人物でも時間帯・状況によって脳波と思考状態の関係は変化し、巷で言われているようなα波が見られればリラックスしているというものではない。

引用元:簡易脳波計による記憶作業における脳波状況フィードバック学習システムの試作

記事レベルでも以下のような記載が出てきます。

先行研究でアルファ波帯域が大きいと集中しているなどの定義がなされているが、これは、個人によってまったく異なっていることも明らかになっている

引用元:慶応大、好き嫌いや眠気などを簡単に測定できる簡易脳波計測器を開発

他にも、医療関係者を対象に、脳波を計測するような医療機器の使い方の研修をしている株式会社 メディカルシステム研修所のサイトにも以下のような記載があります。

α波は単に大脳皮質があまり働いていない状態に対応するものであって、出れば脳がどうかなるとか、体にいいということではない。

脳波の誤解? Q&A Q2;α波は出れば出るほど体にいいか?

こうなると、もはや「α波が出ているから良い状態」とは言えないのではないでしょうか。

現時点の私の結論「α波だけで判断できない」

いろいろ調べてみた結果、現時点の私の結論としては、

「α波は安静時に観測されやすいが、それ以外の時にも観測される。α波が出ていれば、脳に良い状態というわけではない」

というものです。

ネットで調べる以外に脳科学関連の書物も読んでみたのですが、脳については「わかってきたこともいろいろあるけど、わかってないことがものすごく多い」ということがわかっただけでした。

このような状況で、確かな根拠もなく「○○が脳に良い」と主張する商品やサービスは、疑いの目を向けざるをえません。

「疑似脳科学」に振り回されないために見ておくべき動画

脳科学と呼ばれる分野には、まだまだ怪しげなものが非常に多いのが現状です。そのことを問題視している研究者もおられます。

「なんちゃって脳科学」の実態を知りたい方は、下記の動画も合わせてご覧ください。

【脳科学】【精神医学】「でたらめ脳科学に気をつけろ」 モリー・クロケット ted 日本語字幕

 

こちらは『脳ブームの迷信』の著者である大阪大学大学院 生命機能研究科の藤田一郎教授の動画です。

脳の迷信 ~脳科学研究現場から見たブームの落とし穴~

 

今回の依頼者には

「効果があるという確かな根拠は見つけられませんでした。むしろ、脳のことはまだまだわかってないことがわかっただけです。」

と率直に調べた内容をお伝えしたところ、

「あ、やっぱり? 怪しいと思ってたんですよね~」

と軽い反応でした。やはり、怪しいと思うのが当然なのでしょうね。